10メアリ
春、夏が過ぎ、また入学式。
四人は、食堂脇に増設されてる、掘っ建て小屋のような木造スペースから、遠目に式を眺める。ここなら私語が目立たない。
教師が新入生を呼び出す中、雑談に明け暮れてた四人は、食堂に響き渡る知った名前に、ピタリと話すのをやめた。
『メアリ・カソル!』
お下げ髪の少女が、壇の前に出ていく。気の強そうな目で、食堂を見渡してる。
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四人は、食堂脇に増設されてる、掘っ建て小屋のような木造スペースから、遠目に式を眺める。ここなら私語が目立たない。
教師が新入生を呼び出す中、雑談に明け暮れてた四人は、食堂に響き渡る知った名前に、ピタリと話すのをやめた。
『メアリ・カソル!』
お下げ髪の少女が、壇の前に出ていく。気の強そうな目で、食堂を見渡してる。
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式が終わって食堂を出ると、四人はメアリが出てくるのを廊下脇で待った。
出てきたメアリをジョニーとウィルが呼び止めると、メアリは二人を見つけて驚いて、その場に立ち尽くした。
四人の元に向かうメアリ。喋ろうとしない。
「帰れないんだ」単刀直入にウィルが切り出した。「学校に拘束されてる」
疑わし気なメアリに、ジョニーが言う。「家の住所を言えるかい」
メアリ「なんですって」
ジョニー「言ってみて」
メアリは言おうとするが言えない。
ウィル「僕らも住所を忘れた。忘れさせられたんだ」
ジョニー「僕らをここに拘束してる連中をつきとめて、それで、」
「あんたたち、一体家族をなんだと思ってるの」メアリは怒って遮った。あくまでも小さな声で。周りには沢山生徒が居る。
メアリ「連中をつきとめて、それで。戦って勝って、今度は自分がその連中のボスになってやろうって?あんたたちが帰れないのは拘束されてるからじゃない。あんたたちが帰りたくないからだ」
彼女は足速に、寮に戻る生徒の波に混じり行ってしまった。
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メアリ入学から少し。
図書室にて勉強中のメアリとウィル。
メアリが呻いた。「こんな気味悪いもの勉強してられない」
苦笑するウィル。「文句言いながら、一生懸命だね」
メアリはため息ついて頭を振る。「なんでそう平然としてられるの。ここの教えてること、まともじゃないわ。“変化学”と“色彩学”なんて、内容組み合わせたらただの“暗示術”だわ。このまま勉強してったら、卒業する頃には立派な催眠術者になれそう」
肩をすくめるウィル。
メアリ「頭のきれる人間なら卒業を待つまでもないでしょうね。加えて節操なしなら、他の生徒を実験台に実習し出すわ」
メアリはウィルを睨んだ。素知らぬふりするウィルに、しかしメアリは鼻を鳴らして、「彼は悪魔だ」
ウィル「前みたいに君が協力してくれれば、もっと早くヤツらを突き止められるのに」
メアリはウィルを寂し気に見た。前みたいに?前みたいに、私がジョニーの駒だったら、って?
ホームタウンで、カソル三兄弟を知らない人はいなかった。あの頃三人は他の子供たちを引き連れて、日々悪戯三昧だった。町中の人を散々怒らせて、同じくらい散々笑顔にもさせた。
メアリ「ウィル。あの頃はゲームで、悪戯だった。でもこれは違う。現実に私たちはここに閉じ込められてるし、本当に母さんと父さんは私たちを忘れてる。それなのにチームを組んで、敵を作り上げて、ゲームに仕立ててるのは誰」
メアリは立ち上がって、机に広げてた自分の教材をまとめた。
メアリ「ジョニーに帰りたいという気持ちがありさえすれば、私たち絶対に帰れるよ。どうしたら彼にそう思わせられるか」
ウィルが無言でメアリを見るとメアリは言った。「私、諦めてないよ。だからここに来たの」
メアリは行ってしまった。
ウィルは疲れてしまって、広げた教材の上に伏せて目を閉じた。