11海の底の
三年生になりダレックは更に背が伸びた。成長期特有のひょろりとした体型。
寮室の彼の机の上には、教材やゲームカードの代わりに、整髪剤や香水やアクセサリが増えた。
彼は身仕度を整えるのも遅くなった。鏡を眺める時間が長いのだ。同室の三人は、大抵彼を置いて先に登校するようになった。
制服も着崩してくダレック。ネクタイを緩め、首もとのボタンは外し、コートの襟は揉んで立てる。
人より長いダレックの髪を、切らないのかと問うクラスメートはもういなかった。その長さがぴったり様になってた。
そのうちに彼に恋人ができた。学校一の美人、四年生のデイジー・ブレークニー。
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寮部屋にて。
ダレックが、読んでた本に、栞代わりに長い定規を挟む。
ジョニーとウィルは、それを見てちょっと眉を潜めた。
ダレックの変わった癖は、日毎増えていった。でもどの癖も人が見咎めるほどのものじゃない。
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ジョニーは、果ては大型船の設計をウィルに期待しているらしかったが、それは分からないにしろ、確かにウィルにはボートを作るセンスはあった。
寮室の彼の机の上には、教材やゲームカードの代わりに、整髪剤や香水やアクセサリが増えた。
彼は身仕度を整えるのも遅くなった。鏡を眺める時間が長いのだ。同室の三人は、大抵彼を置いて先に登校するようになった。
制服も着崩してくダレック。ネクタイを緩め、首もとのボタンは外し、コートの襟は揉んで立てる。
人より長いダレックの髪を、切らないのかと問うクラスメートはもういなかった。その長さがぴったり様になってた。
そのうちに彼に恋人ができた。学校一の美人、四年生のデイジー・ブレークニー。
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寮部屋にて。
ダレックが、読んでた本に、栞代わりに長い定規を挟む。
ジョニーとウィルは、それを見てちょっと眉を潜めた。
ダレックの変わった癖は、日毎増えていった。でもどの癖も人が見咎めるほどのものじゃない。
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ジョニーは、果ては大型船の設計をウィルに期待しているらしかったが、それは分からないにしろ、確かにウィルにはボートを作るセンスはあった。
こないだの夏休み中に彼が作ったボートは、それまでのジョニーとダレックのより、ずっと乗り心地良くて問題が少なかった。重量は変わらないのに、乗るスペースは一回りほど大きくて、更に、立ち漕ぎにも対応している。それで四人は入り江に行くことが多くなった。
あるとき入江の洞窟で、四人は、美しい海底をもっとよく覗くのに水に頭を潜らせた。
あるとき入江の洞窟で、四人は、美しい海底をもっとよく覗くのに水に頭を潜らせた。
潜ってる間、ジョニーの顔は今よりずっと幼くなったし、ドリーの顔は毛むくじゃらになったけど、ダレックはあまり変わらなかった。
ウィルの顔はぐしゃぐしゃになった。ウィルが好奇心で、両腕も潜らせるとそれもよじれた。その腕に向かって、海底から藻が束になって伸び上がってきたから、ウィルは驚いて水から出た。ウィルの顔も腕も元に戻った。藻は沈み込んでいった。
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三年生の歴史の授業中。
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三年生の歴史の授業中。
古代遺跡が数々紹介される。
教師の話は、海底に眠る未発見の遺跡にまで及んだ。
“CUTS、波下街”と板書しながら、教師は説明する。
「カッツよりもナミシタマチの方が、僕は使うけど。
ナミシタマチが未発見なのは、もうずっと以前から発掘調査を禁じられてるからで、以前というのは、中世よりも前……
中世以前に、海底遺跡の発掘調査なんか、禁じなくとも誰もできないだろうと思うかい。確かにできないが、できなくても志す人間は勿論いたし、志すことからして禁止だからね、かなり死刑になってるんだよ」
教師は、カラフルな美しい街の絵を掲げて続ける。
教師は、カラフルな美しい街の絵を掲げて続ける。
「これがイメージ図。この画家も殺されたね。
当時調査を禁じられていた理由は、この街が悪霊の街と信じられてたからで、今はそうじゃなくて、トランスナショナル、脱領土化してるから、それで禁止なんです。最近では、この間行方不明になったドエイン・ダグラス博士が、どうやらナミシタマチを研究ターゲットにしていたらしくて、……」
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冬休み明け辺りから、教師が、小言を理由に不意打ちに四人の寮部屋にやってくるようになった。ドリーは、君らの素行のせいだとジョニーとダレックに文句を言った。
教師が部屋に来るのを予告してくれる親切な生徒が複数いて、予告を聞くと、ジョニーとダレックは素早く部屋を整理する。
教師の中には、フレンドリー、悪く言えばなれなれしいのもいて、そういうのはしばらく居座って帰らない。ジョニーとダレックはそんな彼らにお茶まで振る舞う。「今度先生の部屋にもお邪魔しよう」と言いながら。
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冬休み明け辺りから、教師が、小言を理由に不意打ちに四人の寮部屋にやってくるようになった。ドリーは、君らの素行のせいだとジョニーとダレックに文句を言った。
教師が部屋に来るのを予告してくれる親切な生徒が複数いて、予告を聞くと、ジョニーとダレックは素早く部屋を整理する。
教師の中には、フレンドリー、悪く言えばなれなれしいのもいて、そういうのはしばらく居座って帰らない。ジョニーとダレックはそんな彼らにお茶まで振る舞う。「今度先生の部屋にもお邪魔しよう」と言いながら。
「そのときは是非先生のセンスで選りすぐったお茶菓子も期待してますね」
「何言ってるんだ、生徒の方は教師の部屋に入れない」
「先生ひどいよ、理不尽だなぁ!」
「先生だって生徒の寮部屋に入っちゃいけないはずなのに」
「先生だって生徒の寮部屋に入っちゃいけないはずなのに」
教師が帰ってしまってからウィルが言う。「君たちもどうしてお茶まで出すの」
教師を部屋に長居させて話を聞き出すのも、連中を探る手掛かりになるかもしれない、とジョニーは言うけど、でも実際長居させてみても、いつもろくな話題は出てこない。
教師を部屋に長居させて話を聞き出すのも、連中を探る手掛かりになるかもしれない、とジョニーは言うけど、でも実際長居させてみても、いつもろくな話題は出てこない。
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ジョニーたちの寮部屋を訪問する役は、新任教師シェーン・ホプキンスにも回ってきたけど、ホプキンスは、教師が生徒の寮部屋に立ち入るのは禁止されてるのでは、と言って断った。