9雪景色

 
最終試験が終わって、まだ午前の校庭に、生徒が溢れ出す。晴天。校庭に積もった雪がきらめいてた。


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テストが終わって、ウィルがドリーが居たはずの方を見ると、もうドリーは姿を消してた。
するとウィルの元へ、ばたばたとジョニーとダレックがやってきて、行こうと言う。
ウィルは思った。居場所が分かるからって、追うのは礼儀知らずだ。
ウィル「ドリーのところへって言うなら、僕は、」
「今を逃がしたら僕が許してもらえるチャンスはもうない」ジョニーが焦ってウィルに頼んだ。「一緒に来てくれ。君もいてくれた方がやりやすい」


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リトルガーデンに着いたドリーは息を飲んだ。園に駆け込んで、くるりくるりと躍って見回した。
スノーローズが咲き乱れてた。その合間合間を埋めるスノーベリー。その全てが雪化粧を施されて陽射しに輝いてる。

「僕とダレックから君に」
声にドリーが振り向くと、ジョニーが立ってた。ダレックとウィルも。
ジョニー「冬の暗いリトルガーデンは君に合わないけど、これだけ華やかにしたら君に合うかと思ったんだ」
ドリー「その似合わない園に僕が入り浸ってたの、誰のせいだ」
ジョニー「悪かった。もう絶対騙さない。君が好きだよ。だから君がいないとすごいつまらない」
ドリーを抱きしめるジョニー。抱きしめられながら、ドリーはジョニーの肩越しに、ダレックの眼差しを見る。
結局ドリーは、大袈裟にため息をついて、ジョニーの腕を振りほどくと、「特別措置をとってやる」
途端に抱きつきなおすジョニーと加わるダレック。
「あんまり納得いかない」ドリーは不貞腐れた顔をして体をよじった。
ウィルが微笑んでドリー達を見てる。

改めて園を見回すドリー。「にしても、これはまさか、」
ジョニー「そう。先生の庭からちょっと拝借」
ちょっとなんて量じゃない。下手したら教師の研究菜園には、スノーベリースノーローズ共一本も残ってないだろう。
「君たち、夜な夜な部屋抜け出してたのは、これか。呆れたなぁ
」とウィル。
「君たちだとバレたらとんでもないな」とドリー。
「バレるはずない、窃盗現場を見られてないからな。こんなロマンティックなことやったのが僕らとは先生も思わないだろ」自信満々なダレック。
ジョニーは悩む仕草で唸った。「僕は危ないよ。確かに君は疑われる心配ないな。羨ましい」
ダレックがジョニーを追い回した。駆け回る二人を、呆れて眺めるドリーとウィル。
ドリーがウィルに聞く。「君がここのこと喋ったの」
「言うもんか。僕も、ジョニーたちに連れられて今ここに来るまで、二人にドリーの居場所がバレてるって知らなかった」
「ここに入る僕を見てたか、見てた誰かに聞いたか…暗示かけて僕自身から聞き出したんじゃないだろうな。全く、一枚も二枚も上手で困る。彼らと付き合うのは疲れる」
「僕がいるじゃないか。これからは僕が見張るよ」
「君、案外我関せずなヤツじゃないか。寮部屋で勉強し続ける僕を、強引に図書室に連れ出そうとしてくれなかった」
「僕も反省してるんだ。ごめん」
「…君は友達だ。あいつらのことも友達って心から思えるときまで、僕のそばにいてくれる?」
「勿論」答えてウィルは思った。そのときまでドリーのそばを離れないのは僕の望みだ。そのときをどうしたって見届けなきゃ。

四人は、ガーデンを抜けて雑木林の端へ出た。崖になってて、並んで座り込む。開けた視界に、一面の海。水平線。
ジョニー「この世界をどう思う」
皆ジョニーを見た。ドリーは内心では、この世界は美しいと答えつつも、やってられないという顔でジョニーを見やった。
ジョニー「僕はキャプテンになりたい」
皆が首を傾げる。
ダレック「なんの?」
ジョニー「だから、この世の」
ダレック「おとぎ話か?」

誰もが知ってるおとぎ話。この世は大きな一艘の船で、不老長寿のキャプテンがその船を操っているという伝説。

ドリー「君がキャプテンなんて、どんなに理不尽な世界になるか」
ジョニーが嬉々として返す。
「君が横で僕を見張っててくれればいい」
皆しばらくおとぎ話の空想で遊んだ。
ダレックは大砲を使いこなす海兵。ウィルは船の設計士。ドリーは水先案内人。
ジョニー「僕が海路を間違えそうになったら、ドリー、君が僕を正して」

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翌日、寮部屋に、ジョニーとダレック充ての手紙が届いた。教師からの呼び出し状。
ジョニーとダレックが騒いだ。「なんでバレた?!」
ひょうひょうとウィルが言う。「僕が言った」
ジョニー「告げ口?なんで?君が?」
ダレック「ああ、どんな罰則が待つか、」
ウィル「そこまでしてこそ償いって言えるだろ」
ドリーは感動して、君ほんとに親友だ、とウィルに抱きついた。親友ごっこする二人と、うなだれる二人。

ジョニーとダレックは、冬休みを返上して研究菜園の手入れをさせられた。それでダレックは、この冬休み帰省を許可されなかった。

ドリーも家の事情で帰省しない。
この年の冬休みは四人のうち誰も家には戻らなかった。