14ニュースボックスとラジオ
ジョニー、ダレックが4年生になる夏休み明け。
ダレックが家からニュースボックスとラジオを持ってきた。飛びつく三人。
ジョニー「やっぱりお坊ちゃんは違うな」
ダレックは苦笑いで答えた。「親父は、金で買えるモノに限りなんでもくれる」
手のひらサイズ、彫りの美しい木箱。蓋を開けると中から霧が噴き出して、空中にスクリーンを作る。
スクリーンに浮かび上がる大量の文字、写真。
スクリーントップに躍る、『〇〇社、△△社吸収合併』との見出し。その下にCEO記者会見の様子が動画で映ってる。そのCEOこそダレックの父だった。
ジョニー、ウィル、ドリーが一様にふざけてその動画を拝む。
ダレックは苦い顔をした。「時間が経てば、こっち好みのニュースを優先して表示してくれるようになるらしい」彼はため息ついてニュースボックスを小突いた。
しばらく四人はニュースボックスで遊ぶ。彼らは画面を次次切り替えてく。
好き放題切り替えてくうち、画面がパチパチとランダムに点滅し始めた。
ドリーが申し訳なさそうにダレックを見る。「一気にいじり過ぎたかな」
ジョニーが目を凝らして、点滅するコラムのタイトルを読み取ろうとする。「U.S・・・ベ・・・トナム・・・」
ダレックが目を見開いてジョニーを見る。「なぁ、これって、」
ジョニーはヒステリックに笑いながらダレックに抱きついた。「君はやっぱり、お坊ちゃんなんて安いもんじゃないな!」
海のずっと向こうには、この世界と似て非なる、パラレルワールドがあると言われる。魔界とも呼ばれた。
どこをとってもこの世に劣る、奇妙な世界で、話題することはタブーだった。
ジョニー「U.Sとベトナムはどっちもパラレルワールドにある国だ」
ドリーは訝しむ。「何でそんなこと知ってるんだ」
ドリーには答えず、ジョニーはダレックに聞いた。「君の父上は、まさか知らずにこれを君にプレゼントしたんじゃないよね」
ダレック「さあどうだか…」
それならば、と四人は、床に転がしたままにしてたラジオを囲んだ。
果たして予想通り、しばらくチャンネルを切り替え続けるうち、流れてきた音楽に、ジョニーは飛び上がって叫びかけた。彼の口をダレックがあわてて塞ぎ、ウィルはすぐさまラジオのスイッチを切った。
ダレック「落ち着けよ!万が一、そこの廊下に教師がいたりしたら!」
ウィル「ラジオも、これ、外まで音漏れてるんじゃないかな。まずいよ」
忠告を受けて、ジョニーは、呆気にとられてるドリーの腕と、ラジオをひっつかみ、自分のベッドに飛び乗ると、ドリーとラジオと一緒にシーツに潜り込んだ。そのシーツの中に、追ってダレックとウィルも頭を突っ込む。
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ラジオを手に入れてから、彼らは音楽に夢中になった。正確には、ビートルズに。
暇さえあれば、皆でシーツに潜ってラジオを聴きながら、いつかライブを見に行こうと夢をみる。
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音楽、絵、小説、演劇、それら芸術ジャンルに関しては、この世はパラレルワールドに比べて、かなりシンプル、素朴、種類も少ない。
逆に言えば、パラレルワールドのアートは、非常に変化とウィットに富んでいた。
その違いは、一見一聞にして歴然。