22闇と光と
そのとき、ウィルとドリーの見つめるコンパスの針が、ごくごくわずか、北からずれた。こんなに必死で見つめているのでなかったら、2人は見逃しただろう。思わず息を詰めて2人はその方角を見る。視線はそのままずらさずにジョニーとダレックを呼ぶ。
ジョニーとダレックもそちらに目を向ける。彼らの目線の先に浮かぶ、小さな小さな光の一点。星が全て消えた闇の中で、チラチラ、今にも消えそうに頼りなげに、しかし確かにそこにある。
「見つけた」ジョニーはつぶやくや否や、全力でボートを漕ぎ始める。彼の漕ぐ勢いとずれぬよう、彼の方を確認しつつテンポを合わせて漕ぐダレック。
もう既にボートの後ろ半分は闇に飲まれていて、ダレックとジョニーの靴の部分が今、無くなろうとしていた。漕ぎながら2人は、なんとはなしにそのことに気がついて、ハッとして唾を飲み込んだ。額に冷や汗が浮かぶ。しかし足元は見ない。見たら足が戻ってくるわけでもない。たどり着かなくては。
ウィルとドリーは、兄達の足の消えたことにも気付かずに、その光から目を離せずにいた。つい先ほどまで儚げだったはずが、みるみる光度とその大きさを増していく。変わらず明滅はしていても、風前の灯のようだったのが、だんだんと意志を持った信号のように見えてくる。それはまた、明るくなるほどに柔らかく温かい色をしていた。光は、切羽詰まった4人の心に少しずつ満ちていく。不安は安心に。絶望は希望に。
ボートはぐんぐんスピードをあげて、驚くべき猛スピードを出している。4人はそう感じた。でもそう感じたのは4人の錯覚で、実際には、ぐんぐんスピードをあげているのはボートではなくて、その光が光度と大きさを増す、その具合だった。
ジョニーは必死に漕ぎながら思った。(ああそうか、あれは…)
ついに光は、ボートを襲う闇を刺貫いて、4人を包み込んだ。それは一瞬の出来事で、光は間もなく引いていった。4人は、その一瞬を1つも見逃さなかった。闇は、光に貫かれても、消えたりせずに、むしろ結局そのまま4人を飲み込んだのだ。世界が反転したその瞬間、4人はぎくりとした。一体どの世界に落ちたか。
夜空とともに満天の星も戻っている。微かだが、遠く近く、波の音も聞こえて、海が戻ってきたのも分かる。ジョニーとダレックは、漕ぐ手を止めて、息を切らしながらしゃがむと、自身の足を確かめた。ある。2人は今度こそへなへなと座り込み、天を仰いだ。無理して漕ぎ続けた手が震えている。
ドリー「…灯台だ」
いつのまにか、どこか知らぬ陸にたどり着いたようで、目の前には岩場が切り立っていた。見上げればその上には灯台が建っていて、4人の遥か遠く後方の海に向かって、温かい色の光を投げかけていた。
尽力した漕ぎ手2人に替わり、ウィルとドリーがオールを取って、ゆっくりと岩場に沿ってボートを漕いだ。ボートをつけられそうな場所を探るうち、なにやら見覚えがある気がする窪みを見つけ、直感で入り込むと、見事その奥に入り江があった。ボートを乗り上げて、4人は浜に降り立った。顔を見合わす4人。
見覚えがあるはずで、その入り江は、まさしく4人のこの旅の出発地、校舎裏下の入り江そのままだった。