23もう1つの入り江

 

4人は、ボートを押して、いつも通りの岩陰にそれを隠した。真実校舎裏下にある入り江の、ボートの隠し場所として利用しているその岩陰には、ジョニーとダレックが作った初代のボートも置いてあるのだが、勿論初代ボートは見当たらない。しかし、それが見当たらないのは、気味悪いほどの違和感を4人に与えた。それほどに、入り江の全ては寸部違わず同じだった。

ボートを岩陰に押し入れると、ドリーが大げさにかがみ込んで、手探りで頭上の岩壁を確かめて笑う。

「すごいな。何もかも一緒だ、ほらここ、天啓のげんこつがある。気をつけなくちゃ」

低い天井のその部分には、大きな出っ張りがあって、慣れるまでしばらくの間、ボートをここに運び入れる時に、4人ともよく頭をぶつけたので、親しみを込めて、そう名付けた。

「そりゃあそうだ、パラレルワールドだからね」馬鹿にしてそっけなく返すジョニーを、ウィルがそっと小突く。

ウィル「でも、頭ではそうと分かってても、実際、これだけ意気込んで飛び出した結果の到着地が、出発地とまるで同じ光景だと、ショックだねえ」

ドリー「同じだから、こんな夜中だって、僕ら簡単に岩場を登っていけるだろう。ありがたいじゃないか」

そのまますたすたと岩陰を出ていこうとするウィルとドリーを、ダレックとジョニーが呼び止める。

ダレック「おい、待て。悪いけど限界だ。少し休みたい」

ジョニー「気を利かせろよ」

 

4人、ボートと並んで岩陰でしばらくの休憩。ダレックとジョニーは仰向けに寝転んでいる。

ジョニーは、隣にうずくまるドリーに向かって、放るように片腕を投げ出して言った。

「揉んで。腕が痛い」

ドリーはムッとしたが、鼻を鳴らすにとどめて黙ってジョニーの腕をさすった。ドリーは、ジョニーの手がまだ震えていることに気がついてからは、少し丁寧な手つきになった。

ジョニーとドリーにつられて、ウィルもダレックの腕を揉もうとする。

ダレック「僕はいい」

ジョニーがつっかかる。「強がるなよ」

ダレック「僕は君ほど疲れてない。君より体力も腕力もあるのは事実だ」

ジョニーは、腕をさすってくれていたドリーの手をはたいた。「もういらない、下手くそ」

ダレック「ジョニー、君、ドリーにあたるな」

ウィルが無理にダレックの手を取って言う。

「ダレックも、ジョニーを煽らないで。君の手だってまだ震えてるじゃないか。君たち、あの切羽詰まった状況で全力出したんだ、疲れて当然だ。気が利かなくて、早々岩場を登っていこうとして悪かったよ。興奮しててさ。ねえ、ドリー」

ふてくされ気味に、それでも同意するドリー。

ダレック「僕はそんなくだらないことで苛ついたりしない」

ウィルは、ダレックの腕を揉む手はそのまま、彼の腹を蹴った。

 

その後も、ジョニーは、少しの間ひとしきり我がままに振る舞ってドリーにあたったが、その間のドリーが、どんな紳士より辛抱強かったので、ジョニーの気が済むのも早く、彼の機嫌はあっという間に回復した。

ジョニーはときたま、こんな風に、彼の計画通りを外れた事態が起きた、その後には機嫌が悪くなった。心底焦ることは、彼のプライドを傷つけるんだろう。

それでも彼が機嫌を損ねるのは、全てが過ぎ去った後であって、いかなる場合でも、緊急事態中には、むしろ普段以上に冷静沈着なのだから、あっぱれなやつと、3人は内心密かに思っていた。