24 ジョニーの思い

 
機嫌が治ったジョニーは、意地を貼るのを止めて、愚痴を言い始めた。
「全く、禁書に手を出すのだって楽じゃないのに、どの本もろくに役立たない。あんなことになるなんて何処にも書いてなかった」
ドリー「急いで漁ったから、書いてあったところ、見逃したのかも」
ジョニーは溜息をついた。ドリーはこの旅のために急きょ四人で禁書棚に忍び込んだことを言っていたが、ジョニーは学校入学以前から禁書を山ほど読んでいた。彼はそのことを、ダレックにしか話していない。
ちなみにウィルは、訳あってそのことは覚えていない。
ダレック「なにより、あんなに頑張って影から逃げたのに、結局影に呑まれて、にもかかわらず問題なくここに到着したんじゃあな。僕らの努力はまるで無駄だったことになる。なあ、ジョニー」
ジョニーは更に深くため息をつく。彼は、想定外の事態を好まないが、もっと嫌いなのが、無駄な手間だ。
ドリー「無駄だったとしても、あの場面で悠長に構えてられるのは、本物のクレイジーだけだよ」
ジョニー「慰め無用」
なんて言い訳したところで、無駄をした事実は変わらない。
ウィルは思い返した。闇が自分たちを飲み込んだとき。そのとき、視界の限りが光に照らされた。その光は、始めは、極小の星よりずっと儚かった。それから、わずか北からずれたホプキンスのコンパスの針。
本当に、兄たちの全速力は無駄だっただろうか。
悠長に闇に飲まれるのを待つ人間に、闇に飲まれた先があるとも思えない。
ウィルは、ジョニーが苛々している本当の意味を考えた。
ジョニーは、予想外の事態に無駄な全力をつくしたからじゃなく、不安なのだ、事態を乗り越えたのに未だ、やったことが無駄だったか、そうでなかったかがはっきりとしないから。
彼は、親友3人の命を、一人で背負っている気になっている。
ウィル「慰めって、別に君を慰めてるわけじゃない。悪いけど、あれは君だけで判断したことじゃないよ、僕らそれぞれの英断だ。それに、僕はあれを無駄だったとも思えない」
対してジョニーは無言で、3人はジョニーがムッとしたのかと思ったが、しばらくして小さく寝息が聞こえてきた。ドリーが慌ててジョニーを揺すりながら言う。
「ここで寝たら凍えちまう。起きて」

四人は岩場を登って上がった。
無理に起こされたジョニーは、一言も喋らず、黙々と登る。

登りきった四人は、目の前に建つ灯台を見上げた。こぢんまりした一軒家が併設されていて、元いた世界では学校の裏門がある位置が、その家のドアだ。
家のどの窓からも明かりは漏れておらず、寝静まった家を訪ねるのは躊躇われたが、野宿したくなければ戸を叩くしかない。
足を伸ばしてみれば、他にも家はあるかもしれなかったが、探し回る気力はないし、夜中で、どの家だって尋ねにくい条件は変わらない。

今すぐにも寝床に辿り着きたいジョニーが、率先してそのドアを叩いた。
予想外に、さして待たされることもなく軒灯が点り、ドアが開いた。
顔を出した初老の男は、四人をザッと観察するなり言った。
「妻の客だね、待っていなさい」
男は家の中に引っ込んだ。
少しして、今度は、優し気な女が顔を出した。ふくよかで、男と同じく、髪に少しだけ白髪が混じる。
「どうぞ」
四人は、すんなりと招き入れてもらえた事に驚き、疑わしく思いつつもその家に入っていった。