1天文学者とエマとアリア

 
鉛色のホール。
壁は本棚で埋め尽くされている。吹き抜けになっていて、二階部分は一階からよく見える。
二階部分には、ぐるりと回廊が巡っている。回廊は、一部スペースを避けるように迂回していて、そのスペースは、大小様々な天文器具、図面、開かれた参考書の山で雑然としている。目立つのは、とてつもなく大きな天体望遠鏡。それは天井を突き破って、先は外に飛び出している。
その研究室スペースに住むのは、青年の天文学者。
スペースから、階段が一階に向かって伸びているものの、彼が使うことはほぼない。彼は、ただただ、毎日そのスペースに引きこもって、図面を書いたり、資料を読んだり、望遠鏡を覗き込んだりを繰り返している。

このホールの住人は、あと二人。
 
少女エマは、ここの居候。転がり込んできたのは随分前。
彼女は、ホール一階の、大きな出窓の窪みに、毛布などの寝具を敷いて、寝泊りさせてもらっている。出窓は巨大で、窪みのスペースも随分大きいので、居心地いい。
そこで寝泊りするエマのために、出窓には真っ黒なカーテンがかけられた。天気の良い日は、朝の陽射しがキツすぎるから。

天文学者と、エマと。あともう一人の住人は、アリア。この家を取り仕切っているのは、彼女だ。テキパキとした女性で、毎朝早くに何処かへ出かけて行く。きちんとおめかしをして。

キツイ陽射しの差し込まない、雨の日の朝には、アリアは、エマの眠る出窓のカーテンを開けてから、外出する。
そうしてくれと、エマがアリアに頼んだのかもしれない。
それとも、エマが雨が好きだと知ったアリアが、好意で始めた習慣かもしれない。

雨の日は、エマは、雲に反射した鈍く白い光と、窓を打つ雨音で目を覚ます。