5夕餉

 
エマは、朝から夜まで、今日も結局本を読みふけった。夜になると、ランプの代わりに、金色に光る天体の模型を窓際に持ち込んで、その明かりで読む。その模型は、元々研究室にあった、Dの持ち物だったが、もう彼はその道具に用がないようで、今では広間の大きな円卓に鎮座していた。しばしばエマはその模型を拝借する。夕飯時には勿論食卓に返す。

アリアは、夜遅く帰ってきた。いつもの夕飯時はすぎていた。彼女は、エマが例の模型を窓際に持ち込んで、本を読みふけっているのを見て、呆れて言った。
「まさか、また朝から今までそうしていたわけじゃないわね」
しばらく間を置いて、ゆっくりと顔を上げて、アリアを見るエマ。エマは、何度か瞬きをして、本の中から抜け出してきて、それから研究室を指差して答えた。
「彼に、朝食持ってったよ」
「なるほどね。じゃあ、朝から今までそうしていたわけね」
きょとんとするエマ。「変?」
「別にかまわないけどね。毎日一日中そうしていて、つまらなくないのかしらと思って」
アリアは、キッチンに入って
夕飯を準備する。昨晩の残りのスープと、今日、都で一番の有名パン屋で買ってきたパンと。

夕飯時。
Dは降りてこない。大量の保存食を、階上の自分の部屋に常備してあって、それで夕食を済ますことが多い。

アリア「明日は出かけたらどう?」
エマは、ここに来てから出かけたことがない。
エマ「そうだね。そうする」

エマ「今日は…」
アリア「ああ、そうよ、今日マリ様にご挨拶してきたの」
エマ「マリ様…」
アリア「女王様よ」
エマ「…この国の?」
アリア「そうよ」
エマは思う。私はこの国の名前すら知らない。